69期生に聞く ~海自一般幹部候補生~
2025.11.01
「後輩に伝えたい事」

海上自衛隊幹部候補生学校
第2分隊
一般幹部候補生 海曹長 長坂 春広
海上自衛隊幹部候補生学校 第76期一般幹部候補生課程(Ⅰ課程)の長坂候補生です。この度、防衛大学校69期本科学生の卒業生を代表し、「小原台だより」に寄稿する機会をいただきました。そこで、「後輩に伝えたい事」と題し、入校から約半年間を通じて気が付いたこと、感じたことを綴ってみたいと思います。
まず初めに伝えたい事は、幹部候補生学校では、自分とは異なる多様な価値観に出会うということです。海上自衛隊幹部候補生学校には大きく分けて4つの課程が存在します。防衛大学校や一般大学を卒業してから入校をする一般幹部候補生課程、部隊で3等海曹、2等海曹又は1等海曹として勤務した後に入校をする一般幹部候補生課程(部内課程)、航空学生出身の飛行幹部候補生課程、そして部隊で准海尉又は海曹長として豊富な経験を積んだ幹部予定者課程です。さらに、分隊長をはじめとする多くの職員の方々との新たな出会いもあり、初対面の人は300名を超えます。自分とは全く異なる経歴を持つ方々と関わる中で、我々防大出身者は良くも悪くも「井の中の蛙」であったことを痛感しました。間違いなく防大卒としての大きな強みがある一方で、4年間を似た価値観の中で過ごしたがゆえの固定観念も存在します。私たちは、その考えをもとに多くのことに挑戦をしてきたため、自分たちのやり方が正しいと思い込みがちです。しかし、価値観は一つではなく、それぞれの経験や立場によって大きく異なります。価値観が違えば、目指す方向や現状に対する意識も十人十色です。その中で全員を同じ目標に向かわせることは容易ではありませんが、それでも互いの価値観を尊重し合い、より多くの人がモチベーションを高く保てる環境を作ることが大切だと感じました。
次に伝えたいのは、「防大生には自信を持って欲しい」ということです。近年、防衛大学校ではハラスメント撲滅のために多くの規則や習慣が見直されてきました。その結果、ハラスメントは大きく減少しましたが、一方で「これで防衛大学校を卒業する意味があるのか」と疑問を感じる人も少なくないはずです。確かに厳しい入室要領や着こなし、ベッドメイキングやプレスなども大事ではあるものの、防大生活で得られる本当の価値はそれ以上のものです。私が半年間で強く感じた防大生の最大の強みは、「考える力」です。コロナ禍や、ハラスメント対策による指導改革という大きな転換期を経験してきた我々は、常に「どうすればより良くできるか」を考え続けてきました。従来とは異なる方法で、同じ水準を維持しようと努力したその経験こそが、防大卒業生の大きな財産です。防大卒業後、後輩たちが現状に満足せず、より良いものを目指して様々なことに挑戦している姿を見ると、私は感動するとともに、大きな安心感を覚えました。昨年、防大で講話をされた陸上自衛隊警務隊長の河口陸将補は、「一度作ったビジョンがゴールではない。変わり続けることがゴールである。」と仰いました。今の防大生はまさにその言葉を体現しているのではないかと思います。後輩の皆さんには、自信をもって防大卒業後の次のステージへ羽ばたいて欲しいと思います。
最後に伝えたい事は、「楽しむことの大切さ」です。高校を卒業して防衛大学校に入り、幹部候補生学校で日々過ごす中で、ときに自分が何をしているのかが分からなくなることがあります。防大でも同じような経験をしたことがある人は多いと思います。その際に指導官や上級生から言われることは、大抵「物事の本質や意味を理解しろ」という言葉です。しかし、物事の本質を理解するには、それ相応の経験や知識が必要であり、すぐに得られるものではありません。だからこそ私は、「どうせやらなければいけないことなのであれば、どうすれば楽しむことができるか」を常に考えるようにしています。どんなに辛いことであっても、楽しむ工夫をすれば大抵のことは乗り越えることができ、また楽しむことで吸収も早くなります。今後、私たちは日本や世界各地で大きな責任を担って任務に就く立場になります。その中で、「物事を楽しむ力」は非常に重要になると思います。後輩の皆さんにも、防大生活の中でどんなに小さいことでも自分なりに楽しむ力を養い、幹部候補生学校に進んでほしいと思います。
幹部候補生としての期間も、残すところ約半年となりました。今も日々、新たな気づきを得ながら研鑽を積んでいます。これからも、国民の皆様、そして仲間たちから信頼される立派な幹部海上自衛官を目指して、努力を続けてまいります。
そして最後に、後輩の皆さん。私たちは一足先に世界に羽ばたき、国防の任に就きます。お互い立派な姿で再び部隊で会える日を楽しみにしています。
(令和7年10月)


