同窓生は今

今人生、真っ盛り ~28期(陸)~(2)

2022.12.28

「身の丈の恩返し」

  及川正美(28期 陸上)https://www.bodaidsk.com/news_topics/oikawa0.jpg

 2022年2月から、東西線早稲田駅近くに同期と共同で「(非公式)小原台サロン」という防大OBを中心とした世代間交流の場を運営しています。オープンから半年余り経過しましたが、4期の冨澤元陸上幕僚長や5期の杉之尾先生をはじめ多くの先輩・同期・後輩が集う場所となっています。陸海空民間関係なく集まる同期や、特に50期台60期台の後輩たちが頻繁に来るうえ、オーストラリア大使館や米豪軍関係者、外資系金融機関を中心とした防大・自衛隊が大好きな人たちも集まり、様々な繋がりに発展しています。

 私にとって防大時代は「人生最悪の4年間」「記憶から消し去りたい黒歴史」であり、苦しく辛いことばかりで正直なところ良い思い出は一つもありません。しかし幹部自衛官になるのだと耐え忍び、何とか卒業して任官しました。希望通りの会計職種になり、意気揚々と北部方面会計隊本部に着任したところまでは良かったものの、BOCを終わって着任した美幌会計隊で上司と折り合いが悪く、防大卒業から3年、25歳3等陸尉で退職しました。それから25年以上、50歳を越えるまで、防大・自衛隊はもちろん、たった一人を除き同期とすら縁を切ってきました。

 東日本大震災の発災からちょうど1週間後、顧客からの切なる依頼を受け、関越道新潟~山形県小国町~笹谷トンネル経由で大雪のなか夜通し走り、2011年3月18日未明にゴーストタウンのように人の気配の消えた、凍り付いている仙台に到着しました。午前中に仕事を終わらせ塩釜の実家に食料や200L以上の水を届けたところ、父が「多賀城まで津波が来たぞ。見に行くか。」と言うので行ったのが人生の大きな転機となりました。実家は高台にあるので山側から多賀城市内に進入したところ、砂押川を渡ってすぐにここまで津波が来たというラインがはっきり残っていて、その先10mほど行くととんでもない光景に遭遇しました。テレビで何度も映像は見ていたものの、臭いや雰囲気はわかりませんでした。見慣れた風景は、悉く破壊されていました。諸行無常という言葉が過りました。そして気持ちが悪くなって帰宅する車内で、ふと四半世紀も会ってなかった何人かの同期の顔が浮かんだのです。「もう長い間会ってないけど元気かな。あと数年したら定年になって、みんな故郷に帰ってしまうのかな。生きてるうちに一度でいいから会いたいな。」

 それから1年ほどして、二人の同期との再会が契機となり立て続けに同期と会うようになりました。突然現れた私を訝しがる同期は何人もいました。しかし「ただ会いたいだけ」だった私は、ひたすら会い続けました。2013年春、26期で学研HD社長の宮原さんとたまたまお会いすることがあり、それがきっかけで小原台クラブに入会しました。その1年半後に事務局長を安請け合いしてしまったのが更に大きな転機となり、2016年6月には(公財)防衛大学校学術・教育振興会理事を拝命しました。これらがベースとなって、1期の大先輩から現役防大生まで繋がることとなりました。

 小原台クラブに入会した頃、監査役の方から寿司屋に連れていかれた際、払おうとしたら「払わなくていい。後輩にやってやれ。」と言われ、防大に後輩に奢るという文化があったことを思い出したのです。ちょうど57期と知り合う機会があったので何度か奢っていたものの、大変な出費になってしまいました。そこで早稲田にあった事務所に後輩を呼んで4人くらいの飲み会をするようになり、そのうち後輩が飲んで泊まるのも常態化していきました。ちょうど新型コロナが流行り始めたころ東向島に移転することになったのですが、外出が制限され居酒屋が休止するなか事務所に出入りするメンバーが大きく変わりました。そのうち事業も低調になり都内事務所を撤退しようとしたところ、よく来ていた同期が「資金協力するからこういう場を続けよう」と言ってくれて、再度早稲田に移転することになったのです。

 同期の支援が無ければ、サロンは実現しませんでした。彼は「貴方を支えるのは「身の丈の恩返し」だ」と言います。今でこそ毎回10名前後が集まり好評を博していますが、私自身は以前からずっと何の意図も目的もなく、ただ「みんなが喜んでくれるのを見ているのが楽しい」からやっているだけです。私が目指すのは「そこにいるけど、そこにいない人」「無色透明な人」です。気が付くと還暦を過ぎ、人生の決算期に差し掛かろうとしています。過去その時その時でベストを尽くしたつもりでいましたが、振り返ると大したことをしてなかったと思うこともしばしばです。しかし、何も考えず心を空にしてサロンで多くの人と交流している今が、人生で一番楽しく充実している気がします。将来の国防のため日本のために、諸先輩や同期・後輩の経験・ノウハウを若い後輩たちに伝える一助になれば、防大・自衛隊に少し恩返しできたかなと思う次第です。

★防大OBを中心として、元幕僚長、元防大教授、元米海軍大佐、豪大使館参事官や駐日豪駐在武官、一橋大博士課程の女子など サロンの参加者は幅広い

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