同窓生は今

第66期生に聞く ~海自一般幹部候補生~

2022.10.23

「後輩に伝えたいこと」

海上自衛隊幹部候補生学校66_hidaka2.jpg

 第73期一般幹部候補生課程 第5分隊

  一般幹部候補生 海曹長  日高 黎人



 海上自衛隊幹部候補生学校 第73期一般幹部候補生課程(Ⅰ課程)の日高候補生です。この度、防衛大学校66期本科学生の卒業生を代表し、「小原台だより」に寄稿する機会を頂きましたので、「後輩に伝えたいこと」と題し、3点述べたいと思います。

 一つ目は、組織の強さについてです。私が防衛大学校を卒業して海上自衛官の制服に袖を通し、早くも半年が過ぎようとしています。その中では、普段の教務及び実習のほか、短艇競技や突然に発動される総短艇競技、8マイル(約8時間半)遠泳、水泳競技、厳しい学生館生活等、様々な経験をしてきました。一般幹部候補生課程 第1学生隊(内訳:防大卒98名、一般大卒89名)は、突如始まった初対面の人との生活にも関わらず、濃密な候補生生活の中で、強固な絆を育んでいます。前述の様々な経験に加え、私は第1学生隊の学生長を拝命し、融和団結の中心となる機会を頂きました。入校当初は、新しい環境下で自分自身のことすらままならない中、さらに学生長という正解のない重責を担い、日々模索しながらの勤務でした。同期の範とならなければならないという理想と、自身の実情とのギャップに苦しむ日々でした。そうした中で、私の精神的支柱となったのは、同期の存在です。苦しい状況でも、自分を犠牲にして支えてくれる同期の助けがあったからこそ、乗り越えることが出来ました。いかに困難な課題でも、全員で協力すれば達成することができることを思い知り、組織力の重要性を痛感しました。 

 二つ目は、責任と自覚についてです。「幹部候補生たる海曹長」という言葉は、肩の金線の重みを端的に言い表した言葉です。私は「我が国の平和と独立を守る」から始まる服務の宣誓をして任官したものの、当時そういった覚悟があったかと問われると、分かりません。今年2月、ウクライナ侵攻において自国の平和と独立を守るために身を呈する若者達をリアルタイムで見て、「国防」という任務に対し、怖いという感情さえ抱きました。しかし、本校の練習船実習は、実際に自分の指示で船を動かし、命を預かるという責任の重さを学ぶことで、自分の職責を自覚するきっかけとなりました。操船する海域は、複数の船舶が輻輳するため、周囲の地形や気象等を踏まえて安全に操船しなければなりません。航海指揮官として一人でジャイロレピーターの前に立つのは、想像以上に緊張しました。自身の操船によって、重大な事故を招きかねないということを強く認識したためです。幹部自衛官の職責は重く、自身の指示によって人の命を左右します。航海指揮官として練習船に乗っている人の命を預かっているのと同様に、幹部自衛官となり、部隊を指揮して国防を担うということは、国民の命を預かることと同義であると考えます。今は直接国防に関与していませんが、「幹部候補生たる海曹長」の職責を自覚し、日々邁進していく所存です。 

 三つ目は、実力の醸成についてです。本校での生活は多忙を極めるため、日々の生活に忙殺され、目の前の課題に取り組むだけになってしまう可能性があります。また、時間に余裕があるときに、自分のしたいことを抑え、実力を高める努力をするのも難しいことです。私自身も防大生の頃、時間に余裕がありながらも努力を重ねられていませんでした。

 「部下は困ったときほど幹部を見るものである。」

 これは、本校の学生隊長が総短艇競技の講評を述べられた際の一節です。部隊の意思決定を担う幹部自衛官は、そういった状況にも対応しなければなりません。私の場合は、第1学生隊として想定外の状況になった際に、「学生長はどのような判断をするのか」と注目された経験があります。この状況は、今後の幹部自衛官生活において、誰もが必ず経験することです。そういった状況に即応するためには、まず前提となる知識や技能といった実力が必要です。幹部候補生学校で身に付けることができる実力は、今後、幹部自衛官としての根底をなすことから、着実に身に付けなければなりません。目の前のことに没頭しすぎるのではなく、先を見通して実力を醸成することが重要です。

 以上、「後輩に伝えたいこと」と題して述べましたが、私自身まだまだ未熟であり、「はっ」と気付かされることが多くあります。後輩の皆の目標となれるよう、立派な幹部自衛官に少しでも近づけるよう、引き続き精進していきます。後輩の皆が、勇気を出してこの世界に飛び込んでくれることを期待しています。

(2022.10.23)

★江田島の桜の下に集う同期

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