防衛大学校関連

新副校長に聞く

2022.11.06

 

防衛大学校副校長(教育担当)

  中野 俊樹nakano.jpg

 

 本年4月より教育担当副校長を務めております中野です。歴代の副校長と同じく、防衛大学校の教育・研究の向上に努めていく所存です。どうかよろしくお願い申し上げます。

 私は昭和62年10月に本校の電気工学教室に助手として着任以来、本校の教育・研究に携わってきました。期別で申しますと28期相当になります。この間、同窓会の皆様方から本校の学生に対してご厚情を賜っていることは、私の上司や先輩の教官方から伺って承知しておりましたが、副校長として学内の学生行事に関わる中で、同窓会から学生の活動に対して多大のご助力をいただいていることの有り難さを改めて痛感しております。これまでのご助力にお礼申し上げますとともに、今後とも本校学生に対しまして、ご支援ご協力の程、どうかよろしくお願い申し上げます。
 本年、防衛大学校は創立70周年を迎えますが、新型コロナウィルス感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻等、本校を取り巻く状況は大きく変化しております。本校の教育・研究の方向性や体制も、これらの変化に迅速かつ適切に対応するために進化させていく必要があり、そのための施策を本年新たに定めました本校の中長期計画に盛り込んでおります。以下、これら施策の一部の概要を説明させていただければと存じます。

(1)教育・研究のデジタルトランスフォーメーション
 近年の新型コロナウィルスの感染拡大により対面での授業ができず、本校のみならず大学での授業はオンライン化が進みました。本校でも学生舎にいる学生が研究室や自宅にいる教官からオンラインで授業を受けられるように、遠隔授業システムを学内に構築して対応してきました。オンライン化により時間・場所に制約を受けずに授業ができるようになった反面、対面授業のように学生と教官間のコミュニケーションを取りながら教育を進めることが難しいといった問題点も浮き彫りになっています。
 そこで、教育のデジタルトランスフォーメーションを通して、学生および教官の間のコミュニケーションが双方向で高度に強化された教育を実施できるように本校のネットワークや情報システムについて検討しております。具体的には、学生に対する課題および資料をデジタル化し、学生と教官がオンライン上で資料を共有して授業を行います。さらにチャットなどのオンライン上のコミュニケーションツールを利用し、授業中に質問でき授業後に指導を受けられるといった双方向授業を学生と教官の間で実施することを計画しています。
 このようなICTを活用した教育システムを利用することにより、学生が時間や場所の制約を受けずに、短時間で効率的に学習することが可能となり、教育の高度化を実現することができると考えています。ご存じの方々も多いかと存じますが、文部科学省の施策であるGIGA(Global Innovation Gateway for All)スクール構想の浸透に伴い、小中学生の頃から生徒一人一人にタブレットやノートPCの端末を配布して、ICTを利用した双方向の教育が行われております。高等学校教育でも同様の授業を行う学校が増えています。
 今後、防衛大学校にもGIGAスクール世代の学生が多数入校する状況を踏まえると、双方向の教育を早期実現することは、制約された学習時間や環境において一般大学以上の教育成果をあげるために必要なだけではなく、少子化の進む中で優秀な学生をできるだけ多く集める上で、本校の魅力化を図るためにも非常に重要であると考えられます。
 研究のデジタルトランスフォーメーションも早急に対応が必要な課題の一つです。高速でストレスフリーなWeb閲覧による情報入手、良質な学術情報へのアクセスが可能な高品質のオンラインデータベース、高速な科学技術計算のための使いやすいクラウド基盤およびサイバーセキュリティー研究に特化したネットワーク等の研究環境の整備に基づく研究の高度化を通して、本校の学術研究レベルの一層の向上が可能となり、その結果、優秀な教官を採用・確保することができます。
 また、研究のデジタルトランスフォーメーションの結果、本科・研究科学生の卒業研究において、今まで以上に学術研究を効果的に経験させることができ、幹部自衛官として必須である課題発見・解決能力の教育の高度化をも図れます。教育・研究のデジタルトランスフォーメーションは本校の教育・研究のさらなる充実・強化のために必須の施策となることから、総合情報図書館および学内の教職員が協力して次期共同利用電算機システム換装に合わせてその実現に取り組んでおります。

(2)デュアルユース(軍民両用)を考慮した基礎研究の促進
 ロシアによるウクライナ侵攻以来、防衛力の強化を求める声が強まっております。防衛力強化にとって防衛技術の基盤となる基礎研究は欠かせません。
 近年の急速な技術革新により、従来の装備を無力化・弱力化するゲームチェンジャー的な装備品が出現しております。例えば、ウクライナ侵攻で高い有効性が明らかになったドローンを応用した装備品はその良い例です。ゲームチェンジャー的な装備品の開発の促進は今後の防衛力の抜本的強化に欠かせない項目です。その遂行には、デュアルユースへの可能性を踏まえて、広い科学技術分野において地道に基礎研究を行い、その成果が装備品開発への橋渡しになるかどうかを継続的に評価していくこと以外に無いと考えています。
 この種の研究は、装備品の開発研究を主に行っている防衛装備庁ではリスクが高くてなかなか手が出せず、大学等の高等教育機関で行うのが望ましいといえます。しかし、日本学術会議において、科学技術を軍民両用の二分化では峻別することは困難との見解が出されているものの、一般大学では、デュアルユースを念頭に置いた研究を積極的に行っていこうとする気運はまだまだ高まっていないようです。今後、デュアルユースを意識した基礎研究は徐々に広まっていくとは思いますが、その勢いは防衛省が想定している防衛力の抜本的強化の進展に追従できるとはいえず、ゲームチェンジャー的な装備品の開発への橋渡しになる研究成果が十分に生み出されることは難しいと推測されます。
 このような状況を踏まえて、防衛大学校において、デュアルユースを念頭に置いた基礎研究を一般大学に率先して進めていければと考えています。その方策として、デュアルユース志向の基礎研究を行うための新たな研究の枠組みを新設すべく、理系の教官方の協力を仰ぎながら教務部および先端学術推進機構にその実現に向けて取り組んでもらっています。
 また、デュアルユースを含めた先端学術的な基礎研究機能の一段の強化を図るため、新たな研究組織の設置に向けた検討も今年度内に始めることになっております。

 以上、簡単ではありますが、防衛大学校の目指す教育・研究活動の今後の方向性およびその施策について説明させていただきました。冒頭で述べました本校の中長期計画には、ここで説明させていただいた取り組み以外にも、国際交流や質の高い人材確保などの重要な施策が盛り込まれており、それらに関しても実現に向けた検討が進められております。
 このような検討の一端に関われますことは、大変嬉しく、かつ、貴重な経験と感じており、微力ではありますが、これらの施策の実現に貢献していければと思っております。同窓会の皆様方には、今後の防衛大学校の充実・強化に関する取り組みにご理解いただき、引き続きご支援、ご指導賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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