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防大講話録・投稿論文

新入生(63期生)に対するOB講話

2015.11.03

(講師紹介)
 氏 名  :重 久 修face1.png
 出 身  :宮崎県都城市 都城西高
 最終学歴 :防衛大学校 22期航空要員 航空工学専攻
 入隊年月日:昭和53年3月 航空自衛隊入隊
 職 種  :戦闘機パイロット(F-4,F-15)

(講話タイトル)「悔いなき人生にするために」講演日時:平成27年4月6日

はじめに
 入校おめでとうございます。今の気持ちは期待と不安の両方だと思います。私は22期の重久です。出身は宮崎県都城市で、防大においては、専攻は航空工学、校友会(部活)は準硬式野球部でした。卒業後は航空自衛隊に進み、戦闘機パイロットとして34年余り勤務し2年前に退官しました。
 今日は、皆さんの先輩としてメッセージをと依頼され、これからみなさんが直面するであろう悩みや様々な壁に向き合う時の一助になればと思い、いくつかの経験、体験と教訓をお話したいと思います。

1 「人は六回顔が変わる」
 まず、はじめに、「人は六回顔が変わる」という話をしたいと思います。人は人生の節目で顔が変わる、すなわち、その時々の立場や責任が変わっていくことで心の顔が変わっていくという意味だと思います。一回目は体が大人になっていく時、二回目は世の中に責任を負う時、今、皆さんはこの二回目の変化の時期を迎えられてると思います。三回目は結婚をして新しい守るべき家族ができ一家の大黒柱になった時、四回目は子供が出来て、子供の立場から一変、親の立場となり我が子を教え育てる立場へと責任が大きくなる時。五回目は社会や家族に対する責任を果たしおえた時、六回目は人生を終える時と言われております。
 自衛隊の中での皆さんの立場も、同様に、最初は自衛官としての使命感や責任感をしっかり自覚し様々な事を学ぶところから始まります。そして、中堅幹部になると、家庭と同様に教わる立場から教える立場に、次いで、人として生きる上で必要な指導ができるような指導者となり、最後は管理者として、組織や人をしっかり掌握し必要に応じて適切な対応が出来るように判断力や決断力を身につけていかなければなりません。
 これは、これから40年間の人として自衛官としての道しるべだと思います。自分が置かれた立場に応じて果たすべき責任としっかり向き合うために、このことを意識して人生を過ごしてほしいと思います。
 今、自分が背中に背負っている看板を忘れず確認しながら、一歩ずつ前へ進むことが大切です。自分が人生の中でどこを歩んでいるのか、全体の人生そのものを見据えた上で、今を考えると大きな悩みも小さく思えたりもします。悩む時、袋小路に入ってしまうとなかなか抜け出れなくなります。一歩下がって全体を眺めてから今を見たらいいと思います。
 パイロットで良かったと思える一つに、雲の上に一気に上昇し富士山の三倍ぐらいの高度から地上を眺めると、「なんて自分は些細な事で悩んだりくよくよしているのか」と思ってしまいます。それで少しは気が楽になります。ただ、すぐに現実に引き戻されますが、少なくとも気も持ちようで前向きになれることを体験し、悩んだら考え方を変えることが随分出来るようになりました。
 パイロットでない人はどうすれば良いかと言えば、防大時代夜の星空を見てはこの宇宙の果てはどうなっているのかとよく星を眺めていました。「大局的に物事を見る」という言葉がありますが、これは、より幅広く、より奥深くものを見たり考えたりすることで小さなことへのこだわりから開放されたり的確な判断が出来たりすることを意味しています。
 加えて、「自分の経験や知識は限られたものしか持ち合わせていないと謙虚に自覚し、周りの先輩や指導教官の助けを借りて足らないスペースを埋めていくこと」が、二つめに大切です。これである程度は冷静に物事に対する判断が出来るようになると思います。
 そして、三つ目が「逃げない気持ち」です。折角冷静な判断が出来てもわかってるけどどうしても今の生活には耐えられないと思ったらどうするか? そんな時は時間との戦いです。生活リズムに慣れ、楽しいと思えることができれば乗り越えられます。日々の生活の中に悩む時間、逃げ方を考える時間を悩まない時間に変えることが大切です。そのためには、本を読むこと、また、部活に打ち込むことを勧めます。
 社会人として自分の決断や行動に責任を負うことが求められそれを実践していくことが二回目の顔へ成長していくことだと思います。
 これをお話した理由は、自分の経験から今現時点でここにいることに対して悩んでいる人が少なからずいると思い話をしました。自分だけでなくみんな悩んでいると思うべきです。そしていかに後悔のない選択、決心をしていくかです。
 自分の一年生の時と指導教官として一年生を担当した時の話をしたいと思います。
 まず入校動機が違うことによる悩みの違いです。皆さんは自分の夢、やりがいを求めて自分の決断で来ましたか?それとも親や先生に進められてきましたか?それともほかに行くところもなく何となくきましたか?入校して自分の思い描いた学校生活とのギャップはどれぐらいありましたか?というお話からしたい思います。
 入校動機に関わらず、今の時間に追われる忙しい毎日が悩みの原因になってる人もいるのではないかと思います。普通の大学生活はもっとゆっくりスタートして自分の時間もあり楽しいのではと思うと、何故こんなきつい生活をしなくてはならないのか?と。悩みの程度は入校動機やこれまでの生活の習慣によって異なると思いますが。
 私も、同様に希望して入校したにも関わらず、4月から5月はずいぶんと悩み辞めたいというより逃げたいという気持ちが強く親にも随分電話もした覚えがあります。
 自分の本当にやりたいことは他にあって、周りに進められて、渋々来た人はもっと悩んでいるのではないかと思います。逃げるのではなく、自分の人生について真剣に考え、決断に責任をもって向き合える自信が持てたら、道を変えるのも良いと思います。ただし、親を頼らず迷惑もかけずが条件です。少なくとも防大で頑張ることは親孝行にはなると思います。 
 また、若い時は時間はたくさんあります。逃げるのでなく、一年間は頑張ることを勧めます。7月の夏の訓練(遠泳)ぐらいからは楽しいことができてきます。生活に慣れて自分なりの時間も作れるようになります。そうすれば、自分の悩みの本当の原因も見えてきます。
 とにかく最初の1か月を、目の前の目標だけを見つめて一日一日頑張ってみたらいいと思います。
 指導教官の時の一年生は最初の1か月で4人辞めました。毎晩、相談に乗り消灯になるまで話をしてました。5月以降は誰も辞めず最後まで頑張ってくれました。
 そして、相談をする時は同じ経験を持つ四年生や指導教官に相談してください。同じように悩む同級生と話しても、傷の舐めあいとなって、どちらかの考えに引きずられることが多くなります。後悔が残る結果になることも多々あります。また、一人では辞めづらく仲間を作って辞めようとする人がいます。仲間を巻き添えにしないで一人静かに決断した方が後々憂いなく新たな道に進めると思います。
 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という言葉がありますが、一人で悩むのではなく、自分の少ない経験より多くを経験している先輩の話に少しでも耳を傾け、多くの本を読み、熟慮することがより良い決断につながると思います。
 また、相談も中々出来ず悩む人は、目の前の大きな壁に正面から挑まず、斜に構えて、目の前の目標だけを見て、それだけを達成するために一生懸命になる方が楽だと思います。そすれば、これから皆さんが歩む道は決して後悔するような人生にはならないと思います。ただし、俗人的な欲を持って臨むと不満やストレスになると思いますので、国のために自分に与えられた場所で正面から向き合い頑張れば、必ず良かったと思える人生になると思います。自衛官という仕事はそれほど素晴らしい職業だと思います。
 次の悩みの時期は、2年生になる時に陸海空の要員に分かれ、専攻が決まる時かもしれません。入校時の悩みに比べればさほど大きくないかもしれません。今や統合の時代です。どの制服を着ても一緒に仕事をする時代です。前にも述べたように、与えられた場所で与えられた仕事に全力で取り組むことです。希望に対する意識が強くなる時、希望がかなわないとストレスも大きくなります。それも自分だけがストレスを抱えることになります。言われるがままの気持ちで仕事をやるようになって、気持ちが随分楽になりました。夢を捨てろて言ってるわけではありません。大きな志を持って目先の欲望にのめり込まないように心を広く頑張ってください。自然体で。
 また、悩みの中で、銃の貸与があると思いますが、自分が武器を持っての仕事なんて出来ないと思う人が出てくるかもしれません。あまり重く受け止めないで、自衛官としての基礎能力を身につける一つだと割り切ることです。我々自衛官は、武器を使うためではなく、武器を使うようなことがないように日々厳しい訓練をしているのです。また、どうしても馴染めない人はそれなりの職種もたくさんあります。
「組織はパズルのようなものです」
 その人の得意な分野で、はまりのパーツでそれぞれが役割を果たすことで一枚の絵を完成していくのです。自分に合わないパーツで苦労する時もありますが前向きに努力していくことが大切です。得てして、不得意な分野で中々うまくいかないこともありますが、それは能力の差ではなく、はまりの差であり、努力をすれば必ず誰かが評価してくれます。不得意な分野で頑張れれば、結果として自分の自信にもなります。いざという時にも、予期しないことが起こったときにも、あわてず向き合うことができます。
 また、年齢と階級が上がるにつれ立場や責任も大きくなっていきます。パズルの中心、大切なパーツへと移っていきます。若い時には、背景の一部、空や海の一パーツ的な存在から、そのワンピースがないと絵の持つ意味が正確に伝わらないようなワンピースへと変化していくものだと思います。大きな意味を持たないワンピースのうちに多くを学び次なるステップでいつでも力を発揮できる準備をしておくことです。

2 安全保障環境の変化と自衛隊の役割(誇りと充実感のある人生)
 次に、自衛隊での略歴に沿って年齢や立場で変化する悩みや教訓、そして、いくつかの出来事と安全保障環境の変化及び自衛隊の役割の変化についてお話します。
 私が防大三年生の時にソ連のミグ戦闘機が函館に降りる亡命事案がありました。米ソの冷戦時代の真っ只中で起こり北の空が緊張に包まれたのを覚えています。皆さんはスクランブルという言葉を聞いたことがありますか? 航空自衛隊の平時実施している、国籍不明機の対領空侵犯措置のために、空自戦闘機を緊急発進させることを言います。
 航空自衛隊に入り、戦闘機乗りになって、最初の任務がこのアラート勤務でした。時はまだ冷戦時代。当時のソ連の大型偵察機や爆撃機と、日本海で向き合った時の緊張は今でも忘れません。
 時代にはうねりがあります。太平洋戦争が終わった後、この冷戦時代が長く続き、そして突然と東西ドイツの壁が崩壊し、2年後にはソ連が崩壊しました。この間、イデオロギーの衝突は国を二分する争いとなり、朝鮮戦争、ベトナム戦争が起こります。ソ連が崩壊したことで世界は平和な安定した時代を迎えるかと思われました。
 平成に入り、日本の周りも大きな脅威がなくなり落ち着いた時代を迎えるかに思えましたが、皆さんが生まれてすぐ2001年に、9.11米国同時多発テロが起こり、非国家組織、テロとの戦いが始まりました。平和な時期は10年余りで終わり、次なる戦いが今も続いています。これ以外にも、海賊や大規模災害なども頻発し、自衛隊の任務、行動範囲は一気に拡大されることとなります。今や国内に限らず、世界各地で自衛隊は活躍し世界の国々から高い評価を得ています。時代のうねりは今後高くなるのか収まり安定してくるのか全く予断を許しません。
 皆さんは日の丸を背負い世界で活躍することになります。やりがいのある誇りを持てる仕事です。40年後どんな時代になってるか?私が想像出来なかったように、これから先の時代も想像も出来ませんが、歴史は繰り返します。平穏と波乱は形は異なっても繰り返します。いつどんな時代になっても国を守れる準備をしておかなければなりません。その準備こそが戦争を回避する第一歩になるのです。
 皆さんは防大を卒業したらすぐに指揮官をやる人がいます。指揮官は部下を守り、部下を鍛えることから始まります。そのためには、部下のことを知っておくことが大切です。「人の目を見て心を読め。」スマホの時代になって人に向き合うことが少なくなっていませんか? メールなら言いたいことが言えるけど面と向かったら何も言えないなんてないですか?
 また、情報も何でも得られる時代になり、情報はうまく使えば、昔より幅広く奥深く物事を見られる時代にもなりました。しかし、情報に翻弄され情報に逆に使われている人はいませんか? 戦いの様相も、宇宙空間、サイバー空間も戦いの対象になります。今後益々デジタル化が進んでいくことと思います。でも自衛隊では装備品はデジタル化が進んでも部下は人です。アナログの世界です。3.11東北大震災でもわかるように、人の気持ち、心が何より大切です。防大での生活においても、スマホより人と向き合うことを優先してください。何かがあった時救ってくれるのは同期であり同僚です。家族を含めて人について考える四年間にもしてもらいたいと思います。このことは人生の中で最も役にたつと思います。
 おいしいラーメンのスープは、鶏がら、豚がらと人柄だそうです。
 人生とは、人と生きる、人のために生きることです。
 また、失敗は敗北にあらずです。失敗を教訓として人生に生かした人だけが人生の勝者になれる。過去のことをくよくよせず、未来を切り開くためにあると考えるべきです。それが、どんな変化にも対応出来る能力を身に着ける第一歩です。

おわりに
 悔いなき人生にするために大いに悩み、乗り越え、誇りある防人とならんことを心から祈念してます。

(同窓会本部事務局広報部担当記)

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