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お知らせ

「同期生紹介」(11)(特別会員)(陸)橋本健一氏~「トキ保護の現在」~

2023.08.14

(陸)橋本健一氏(金沢大学機械工学科卒、武器科)は東海・北陸支部の特別会員としてこれまで北斗会の活動に積極的に参画されてきました。この度山田前東海・北陸支部長の推薦があり氏の現在取り組んでいる「トキ保護活動」について会員の皆様に紹介できることになりました。

  (陸)橋本健一氏のこと        (陸)  山田 弘文

石川県において、日中朱鷺保護協会の会として活躍中の、東海北陸支部特別会員(陸上武器科職種)橋本健一氏をご紹介します。

同氏は、昭和38年3月金沢大学工学部機械工学科卒業後、陸上自衛隊幹部候補生(防大7期生と同時期に幹部候補生学校入校、)任命後、名古屋大学大学院工学研究科卒業後、陸上自衛隊(武器科)幹部に任官し、武器補給処、技術研究本部、調達実施本部、陸幕武器化学課等で勤務し、その間に第2高射特科群(首都防空担当ホークミサイル部隊)の第103高射直接支援隊の隊として部隊勤務をしました。

退官後は故郷の石川県において、東京海上火災保険会社、石川県庁、JA 金沢市において勤務されると共に、東海北陸支部の特別会員として、同期生会活動に積極的に参加されました。これに並行して同氏は、絶滅した朱鷺の再生を目指して勉強を始めると共に、いしかわ動物園においても実務研修を重ね、平成9年には朱鷺に関する著名な研究者の一人となりました。その後、NPO 法人日中朱鷺保護協会の4代目会に就任し、現在に至っています。

紹介者山田は、現職時代に装備の研究開発関係分野の業務を通じて同氏を承知していましたところ、第2の職の金沢における同期生会活動で同席するとともに、同じ研究分野の金沢大学の教授を介し改めて同氏の活動を紹介されました。退官後初めて同期生会の席上で同氏と再会し、承った朱鷺の再生に関するお話は印象に残りました。その後も同氏は活動を継続しており、報道によると目標の玉成が目前にあると聞き、同氏に確認したところ、ホームページに紹介するべきもの判断し、ご紹介する次第です。

橋本PDF_imgs-0001.jpg 協会20周年P_imgs-0001-2.jpg


     「トキ保護の現在(いま)」     特別会員 (陸)橋本 健一

東海北陸支部の特別会員として、同期生会に参加させていただいていた、陸上(武器科)の橋本健一です。小生の故郷である石川県は、昔から佐渡と並んで朱鷺の生息地でした。現在の地名にも朱鷺の台などと残っています。幼少の頃には高台の実家から見える田んぼで朱鷺が食餌している様子を見ることが出来ました。当時の農家の人々は朱鷺との共存を大切にして農業を営んでいたと聞いていました。子供心にも美しい朱鷺の姿が身近にあることが日常と感じ、人と自然の共存を大切にしていました。しかし戦後社会の近代化優先の波に押され人間優先となり、朱鷺の安住の地は急速に縮小されて行き、純粋の日本朱鷺は皆無になってしまいました。

地球上の命は、本来自然と共生して生まれたものです。持続可能な社会を目指さねばならない今こそ、人と生き物の共生の考え方が必要であると思います。絶滅した朱鷺を放鳥によってよみがえらせることは、未来社会を担う子供たちに「人と生き物の共生がいかに重要であるか」ということを、身近な例で教育できる教材と考えています。小生は幼少時以来、もちろん自衛隊入隊中も継続して朱鷺のことを考え、関係を保ってきました。

この度、図らずも日中朱鷺保護協会の会を拝命し、その責任を強く感じています。今後とも「人と生き物の共生」について心がけてゆきたいと考えています。

2026年度以降、能登半島でも「トキ」を放鳥することが環境省で決定しており、石川県は「トキ」が安心・安全に生存していける自然環境・社会環境を整えることに県知事以下頑張っている状況であります。

この度、7期生会の特別会員として朱鷺保護活動の現状をホームページでご紹介いただける由、大変光栄且つ有難く思っています。たまたま7月に開催された協会の総会でご挨拶申し上げた1文がありましたので、朱鷺保護活動の現状の概要がご賢察いただけると思い、別紙資料(「トキ保護の現在」~石川の空にトキを再び~)として添付いたしました。

また現在は、その方策の一環として、小学生の「朱鷺の絵」の募集活動を実施しています。 各位のご理解ご声援を賜りたく、お願い申し上げると共に、ご挨拶とします。

本州最後のトキ  能里(のり)の剥製(2).jpg 佐渡での放鳥の様子(2).jpg

●別紙「トキ保護の現在」(NPO法人「日中朱鷺保護協会」総会(令和5年7月)時の会長挨拶)

「トキ保護の現在いま」~石川の空にトキを再び~ 2023年6月2 5日 橋本健一

①NPO法人日中朱鷺保護協会の会長を務めさせて頂いております橋本健一と申します。ご挨拶を兼ねて、我国、主として石川県のトキの繁殖状況についてお話させて頂きたいと思います。             現在名誉会長であらせられる村本義雄氏の初代会長から数えて4代目になります。平成9年(1 9 9 7年)に村本義雄氏のトキ保護活動に惹かれて、当時の 「中国のトキを守る会」 に入会させてもらいました。      その後、平成 1 3年6月 1 7 日に発展的に改組し、「 日本中国朱鷺保護協会」 となり、 平成 1 3年 ( 2 0 0 1年) 1 0月 5 日にNPO法人の認定を受けました。

②昭和3 8年 ( 1 9 6 3年) の冬、日本海側は、いわゆる「 3 8豪雪」 で野生の生き物の餌場が無くなり 、日本本州のトキは能登半島の 1 羽のみになりました。そして、 昭和4 0年 ( 1 9 6 5年) 本州最後の 1 羽になったトキの名前を石川県教育委員会が公募の結果から、能登の里を意味する 「能里 (のり) 」 と命名しました。

③昭和4 2年 ( 1 9 6 7年) 9 月 、 文部省文化庁は佐渡島のトキを救うため、能登のトキを捕獲して佐渡島へ移すことを決定し、 石川県教育委員会に指示しました。石川県は 3 年掛りで、 昭和4 5年 ( 1 9 7 0年) 1 月 8 日穴水町乙ヶ崎の入り江の水田に飛来した 「能里」を捕獲してその日のうちに新潟市に移送しました。

佐渡トキ保護センターは、「能里」(雄)を2か月余りのお見合いの期間を経て、佐渡のトキ「キン」(雌)と同居させましたが、ペアリングが成立する前に 翌年の昭和4 6年3 月 1 3 日の朝、 「能里」 は死亡してしまいました。「能里」の死亡により本州最後のトキが絶滅したのであります。現在、 「能里」の剥製が、 石川県立歴史博物館に保管されており、毎年5月の愛鳥週間の期間だけ公開されています。

   佐渡トキ保護センター(2).jpg      野生復帰ステーション(2).jpg

              

平成 1 5年 ( 2 0 0 3年) 1 0月 1 0 日 、 佐渡トキ保護センターで保護されていたトキ「キン」 (昭和4 5年「能里」のペアリングの相手として選ばれていた雌のトキ)が負傷で死亡し、 日本原産のトキは絶滅してしまいました。現在、佐渡トキ保護センターがある「トキの森公園」の入口に「キン」の石碑が建っております。

トキの分散飼育

平成 1 5年 ( 2 0 0 3年) 前後、 東アジアの養鶏場で高病原性の鳥インフルエンザが発生し、 瞬く間に欧州を含め世界的に大流行し、 一億羽以上の鶏が殺処分されました。                     この平成 1 5年 ( 2 0 0 3年) 1 2月末、 環境省は佐渡トキ保護センターで飼育、 繁殖したトキが鳥インフルエンザ等の感染症で絶滅する危険を避けるため、佐渡島以外の別の場所で飼育して安定的な存続を図る 「分散飼育」 の方針を打ち出しました。即、平成1 6年(2 0 0 4年)の年頭記者会見で谷本正憲石川県知事がトキの受け入れを表明しました。その後、多摩動物公園、島根県出雲市、新潟県長岡市が名乗りを上げました。

いしかわ動物園における分散飼育

石川県は、谷本知事の表明後すぐに「いしかわ動物園」を核にトキの受け入れ準備を進めました。                        飼育員を多摩動物公園に派遣、研修のうえ、トキの近縁種のクロトキ、オアカトキを貰い受けて人工飼育を進めるなどして、トキ飼育のノウハウを積み上げました。                         いしかわ動物園は、 平成2 1 年 ( 2 0 0 9年) 8月 2 1 日「 トキ繁殖ケージ」 の建設に着手するとともに トキの監視モニター、人工孵化、ヒナの給餌を行う 「 トキ飼育繁殖センター」 を設けました。       トキは、人間からの感染症などを避けるため非公開となるので、動物園は「繁殖ケージ」と「飼育繁殖センター」内のトキのハイビジョン映像を公開するための「トキ展示映像コーナーを既存の「動物学習センター」に設けました。そして平成2 2年 く 2 0 1 0年〉 1 月 8 日 、 佐渡トキ保護センターから 2組のペア : 4羽のトキがいしかわ動物園に移送されて来ました。

本州最後の野生トキ「能里」が捕獲され、佐渡島に向けて移送されたのが昭和4 5年( 1 9 7 0年) 1月8日であり、実に4 0年ぶりの 「里帰り 」 であり、平成1 6年の石川県知事が分散飼育受け入れの名乗りを挙げてから6年目になります。                                        移送されて来たトキが、平成2 2年 ( 2 0 1 0年) 3月 2 7 日、「いしかわ動物園」 最初の卵を産み、4月 2 7 日ヒナが誕生しました。ヒナは体長 1 2センチ、 体重6 2 グラムで、 健康状態は良好で、石川動物園でトキの人工孵化が初めて成功しました。ヒナは4 5日くらいで、親と同じ位の大きさ・重さになり、自分で餌を食べ、飛べるようになり、すなわち巣立ちします。                          そして、 いしかわ動物園では平成2 2年( 2 0 1 0年)7月から令和4年( 2 0 2 2年) 7月までの 1 3年間に8 3羽が巣立ちました。そのうち、 放鳥のため 7 5羽を佐渡トキ保護センターへ移送しております。          その間の平成2 8年 く 2 0 1 6年〉 1 1 月 1 9 日、いしかわ動物園にトキを一般公開するための施設 「トキ里山館」 がオープンしました。

トキの野生復帰のための放鳥

環境省は平成1 5年3月に「環境再生ビジョン」を策定し「平成27年頃、小佐渡東部に6 0羽のトキを定着させる」という目標を掲げ、関連団体と連携を取りながら、野生復帰の取り組みを進めました。          平成1 9年( 2 0 0 7年) 6月から野生復帰ステーシ-ョンで飼育トキの野生復帰訓練が開始されました。                     平成2 0年 ( 2 0 0 8年) 9月 2 5 日、山科鳥類研究所の総裁の秋篠宮殿下・紀子妃ご臨席のもと 1 0羽 (雄5羽、雌5羽) のトキが 一斉 に放たれました。 (第1回放鳥)。                         それ以降、 毎年放鳥され、 令和4年 ( 2 0 2 2年) 9 月 2 9 日~ 1 0月 1 日で2 7回目になりました。                    第1回放鳥から第2 7回放鳥の累計で、 4 5 4羽 (雄2 5 2羽、 雌2 0 2羽) が放鳥されました。        平成2 4年 ( 2 0 1 2年) 、 佐渡で放鳥したトキの3組のペアから、野生下で8羽のヒナが生まれ、 巣立ちしました。日本の野生下でトキのヒナが誕生したのは昭和5 1年 ( 1 9 7 6年)以来3 8年ぶりであります。                      そして環境省は、平成2 6年 ( 2 0 1 4年) 5月 6 日、佐渡で平成2 4年に野生下で生まれたヒ(雄)を親鳥とするヒナが産まれたことを確認したと発表しました。                           平成2 0年の第1回放鳥から数えて3代目 (孫) の誕生は初めてであり、自然の繁殖活動がさらに進むことが期待されます。令和4年 ( 2 0 2 2年) 1 0月 1 3 日時点での野生トキは、 環境省情報によると 5 6 9羽と推定されます。

内訳 放鳥トキで生存が確認されているもの: 1 5 1羽

   放鳥トキから野生下で誕生したもの : 4 1 8羽

    (足環あり: 1 5 8羽足環なし: 2 6 0羽)

                  合計 : 5 6 9羽

トキのテラス(2).jpg 野生復帰ステーション全景(2).jpg

我が国の飼育トキ

令和4年( 2 0 2 2年) 1 0月2 8日現在の我が国の飼育トキは1 7 5羽となりました。

(内訳)

佐渡トキ保護センター

3 6

佐渡野生復帰ステーション

9 3

多摩動物公園

1 0

いしかわ動物園

1 0

出雲市トキ分散飼育センター

1 1

長岡市トキ分散飼育センター

1 3

佐渡市トキふれあいプラザ

2

合計  1 7 5羽

我が国のトキの生存数

令和4年 ( 2 0 2 2年) 1 0月時点で、我が国に生存しているトキの総個体数は、 7 4 4羽と推定されます。

(内訳)

飼育下のトキ

1 7 5

放鳥トキで生存しているトキ

1 5 1

放鳥トキから誕生したトキ

4 1 8

合計  744羽

生き物が一つの種として自立して生存していくには、2 , 0 0 0羽(頭、匹、人など)以上が必要であると言われております。

⑪今後の計画

環境省が2 0 2 0年2月1 3日、新潟県長岡市のアオーレ長岡で、トキの放鳥や繁殖の方針を話し合うトキ野生復帰検討会を開き、2 0 2 1 ~ 2 0 2 5年度の「トキ野生復帰ロードマップ2 0 2 5」の素案が提案され、 2 0 2 6年度以降、 佐渡島以外の能登地域と島根県出雲市で放鳥されることになりました。                         環境省は2 0 2 2年8月4日、全国から公募していたトキ放鳥の候補地に石川県と宝達志水町以北の9市町、島根県出雲市を選ぶ方針を固めました。今後、環境面の調査を行い、2 0 2 6年度以降の放鳥を目指すことになりました。

トキ放鳥の候補地に選ばれたことを受け、馳浩県知事と 9市町長は、2 0 2 2年8月8日、山口壮環境大臣を訪ねて、謝意を伝えました。馳知事はトキの営巣地や餌場の整備に本腰を入れるとともに、放鳥の意義を教育の現場から周知して、地元の気運を盛り上げる意向を示しました。山口環境大臣は「地域が一体となった前向きな姿勢を心強く感じる」と述べ、トキとの共生を目指す取り組みが地域の活性化につながるよう期待を示されました。

我々も、トキの受け入れに必要な自然環境・社会環境の準備を地道に進めていくことが必要と考えております。

                      

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