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お知らせ

「同期生紹介」(8)(海)加藤寛二君~「セクハラ防止教育に取り組んだ10年」~

2023.03.07

(海)加藤寛二君(航空工学専攻、1大隊、グライダー部、文芸部、演劇部、カトリック研究会)は、1995年1月定年と同時に在日米陸軍第500軍事情報旅団(キャンプ座間)の「座間キャンプ図書部」に就職、約10年間勤務の後、迫りくる老々介護時代の一端を担うべく、東洋医学の一つである「針灸・按摩・マッサージ」の技術習得を決意して退職し、2004年4月新横浜にある鍼灸柔整専門学校に入学(64歳)。学校は午前中で終了するので、午後はアルバイトをすることに、ところが運よく鍼灸関連の会社(「株式会社グローバルスポーツ医学研究所」)に、アルバイトではなく正社員の「教育担当顧問」として就職することになりました。この会社は、鍼灸マッサージ店舗(「てもみん」という名前で有名、全国300店舗)の他、オリンピク選手等へのトレーナー派遣、豪華客船等へのリラクゼーションスタッフ派遣、時には被災地へのマッサージ師のボランティア派遣など手広く活動しており、従業員の6割が女性という当時としては特異な存在でした。今回のテーマである「セクハラ防止教育」は米軍におけるセクハラ教育やこの鍼灸関連会社での各種のセクハラ防止に係る教育や取り組みを基に彼自身の経験をもとに纏められたものです。

また加藤君は現役時代掃海部隊で活躍の後、インドネシアの防衛駐在官などの要職を経て定年退官後はこの経験を生かしてインドネシアとの若者の日本への留学などの支援を積極的に行いつつ、自らインドネシアに日本語教育のために教員として赴くなど日本とインドネシアの両国との懸け橋となる活動を行っています。2015年「株式会社グローバルスポーツ医学研究所」を退職後、念願の日本語教師養成学校に入学、通常2年かかるところを約1年後の2016年日本語教師の資格を取得、以後横浜市の"国際交流の会"に所属、ボランティアで初級クラスを担当。2017年からはインドネシアと日本のリクルート会社の合意で、単身ジャカルタに赴任、日本への留学志望者に日本語教育を行っていました。しかし当初3年間の予定でしたが1年半後、双方の提携条件が破棄され帰国せざるを得なくなるという残念な結果となったようです。そうした状況にありながら、現在でも彼が日本に送り出し大学等で日本に留学中の青年たちのサポートを引き続き続けております。インドネシアに対する良き理解者であります。

加藤君ご夫妻.jpgまた海上幹候14期生会(舟師会)の機関誌の編集を創刊第1号(1991年、平成3年)から終刊100号(2020年、令和2年)に至る殆ど(インドネシア勤務中の2年間を除く)に係るなど、ご夫妻で海上幹候14期生会誌の編纂の中心として会員を支えてくれました。

   


「POSH(セクハラ防止)教育」に取り組んだ10年~

(海)加藤 寛二

                  (*POSH : Prevention of Sexual Harassment)

はじめに
日本においては、男女雇用機会均等法をはじめとする法整備も進み、職場において女性が活躍する場面は多くなってきました。しかし、そのような情勢の中で、女性を仕事の対等なパートナーとして見ず、性的な関心や欲求の対象として見るという意識は、職場におけるセクシャル・ハラスメント(『セクハラ』: 性的ふらち行為)を引き起こすことに繋がっています。これは対象となった女性の個人としての尊厳を不当に傷つけ、能力発揮を妨げるとともに、企業にとっても職場秩序や業務の円滑な遂行を阻害するものであり、何よりも社会的に許されない行為であることは言うまでもありません。女性を特別視することなく、お互いの気持ちを尊重しあって仕事ができる職場環境を創ることが大切であります。                           また、女性も仮に、性的言動に対して不快感を示さなかった場合には、それらの行為を受け入れているものと誤解され、問題が深刻化することがあるということも認識しておく必要があります。不快に思う場合は、はっきりとその旨の意思表示をすることが重要です。                                                      ただし、今後女性の地位が向上し、女性の上司から若い部下男性に対しセクハラ行為が行われることが多くなると予想され、米国内ではそれらの対応も教育されていますが、日本においては公表されている事例がないので、本稿では男性から女性に対するセクハラに限定して記述することとします。                                         在日米陸軍座間キャンプ.jpg

なお、補足しますと、私がキャンプ座間で勤務していた期間は約10年でしたが、その間、毎年3時間のセクハラ防止(POSH : Prevention of Sexual Harassment、本稿では "ポシュ" と呼称する)講習を受けなければなりませんでした。米軍においては、兵士も事務官等も全員、この講習を受講する定めになっていました。

1 教育の目的                                                         ポシュ教育の目的は、セクハラについて正しく理解させ、セクハラのない快適な職場環境を創ることにあります。

2 性的役割の固定観念と性差別                                          (1) 性的役割の固定観念とは:「男性だから・・・・」とか、「女性だから・・・」というような身体的性別の違いだけの理由である考えを正しいと思い込むこと。例えば、「女性は男性よりも能力的に落ちる」とか、「男性は女性に優しくなくてはならない」というような固定的な役割意識のことを言います。                               (2)性差別とは:性別の違いだけで異なる待遇をすること。例えば茶くみやコピーとりは、女性の仕事である。「管理職には男性が適している」、「女性だから早く帰ってよい」など性別の違いだけで差別することを言います。

3 セクハラの定義                                                        セクハラとは「①職場において②相手の意に反する③性的な言動で、それに対する対応によって、仕事を遂行する上で一定の不利益を与えたり就業環境を悪化させること」を言います。                                   

上記のセクハラを構成する3つの要素がすべて満たされない場合は、犯罪としてのセクハラにならず、単なる「いじめ」、あるいは「虐待」といった別の法律の範疇になります。                                            

① 「職場」とは?                                                                     業務を遂行する場所を指し、通常就業している場所以外であっても、業務を遂行する場所(取引先の事務所、接待などの取引先との商談のための会食、出張先)であれば職場とみなされます。                                           また、アフターファイブの宴会でも、実質的に職場の延長線上のものであれば、職場に該当すると考えられます。                              

② 「相手の意に反する言動」とは?                                                 歓迎されない不愉快でやめてほしい振る舞いや言動(UNWELCOME)                                           

③ 「性的言動」とは?                                                                 一般にセクハラは言動によるものや、写真を見せる、身体に触る、さらには性暴力に及ぶものまで、その行為の形態には様々なものがあります。                                                                      例えば                                                                     (1) 発言                                                                         性的な冗談・からかい・食事・デートへの執拗な誘い、意図的に性的なうわさを流す、個人的な性的経験などを質問する、性的経験談を話したり聞いたりする等々                                                 (2))視覚                                                                   ヌードポスター・猥褻(わいせつ)図画の配布・掲示等                                (3)行動                                                                           勧誘しているような視線や仕草、身体への不必要な接触、性的関係の強要等

4 セクハラのタイプ                                                                     セクハラには2つのタイプがあります。                                                        (1) 代償型(対価型・地位利用型)                                                              性的な恩恵と引き換えに、男女に関わらず、地位や立場、権限を利用した昇進                                       拒否や解雇など、労働条件への具体的不利益が発生するタイプ                                                      

例1:店のマネージャーから好意を示され、恋愛感情を綴った手紙を貰ったが、その手紙を返したところ、急にマネージャーの態度が変わり、性的な中傷が行われ、その上司にあたるエリアマネージャーに救済を求めたところ、取り上げてくれるどころか逆に退職を勧められた。                                                                    例2:上司から性的関係を迫られて断ったところ、仕事の上での嫌がらせが続いている。                                   

(2)環境型(環境汚染型)                                                                 性的な言動を繰り返す事によって、職場の環境を悪化させるタイプ。                                              勤務中や職務に関係する環境の中で、故意にまたは頻繁に不愉快な言葉を投げたり、仕草を見せたり、あるいは、性的意味合いを持つ身体的接触をすること。個人の職務遂行を阻害し、不快な労働環境を作りだす目的、又はその行為を持つ性的な言動を言う。          

例1: 呼ばれて、仕事を頼まれるたびに、お尻や腰などに触れる男性がいる。やめて欲しいと言っても聞かず、上司も見て見ぬ振り、仕事が手につかず、出勤するのが嫌になった。                                                  例2: 猥褻な写真を机の上に広げたり机の中に入れられることがしばしば。再三、抗議するがやめない。

5 セクハラの判断基準                                                                セクハラか否かを判断する基準としては、職場において、本人の訴えや第三者から見て、見過ごすことのできない程度の具体的な不利益が生じていること、又は生じようとしていることが重要になります。特に、環境型セクハラはその範囲を判断しにくいですが、次のように考えるのが妥当です。                                                        1)特に発言を通じて行われる場合などには、原則として、その性的言動がどの程度繰り返されているかが基準となります。なお、問題の性的言動が、被害者にとって耐えがたいほど悪質なものと考えられる場合は、一度の言動であってもセクハラに当たります。                                                                            (2) 「Unwelcome」の言動かどうかは、通常の女性の感じ方が判断の基準になります。                                       ただし、被害者が普通以上に性的感受性が強い女性である場合でも、本人が「Unwelcome」であると意思表示しているにも関わらず、その性的言動が繰り返される場合には、「通常の女性」の感じ方にとらわれず、被害者本人の気持ちが判断の基準となります。 

6 セクハラの起きる原因と防止策                                                          セクハラは、以下のような様々な要因が関連して発生すると言われています。                                                

女性を職場において、性的な関心や欲求の対象として見ている(直接的要因)                                          ⇔  密接な結びつき                                                                    女性を職場において対等なパートナーとして見ない(背景となる要因)                                            

◉ 自分の領域を女性に侵害されたくない (女性を職場から排除する意識)                                      ◉ 対等な労働力として否定する (女性は職場の華、潤滑油として見る意識)                                       ◉ 女性を軽く見る (性的な言動が人を不快にさせていることを理解していない)                                 ◉ 無意識の性別役割分担意識 (特に、結婚、出産、育児に関し手の発言には最新の注意が必要なことを理解していない)                                              このように、「女性を職場において、性的な関心や欲求の対象と見ている」ことが、対価型・地位利用型、環境型といわれるセクハラ発声の直接の原因と考えられます。ただし、これらの行為は一読して明らかに「してはいけない行為」と判断されますので、セクハラの防止のためには、「セクハラをしてはいけません」、というだけでは不十分と考えられます。なぜなら、誰にとっても当たり前にしてはいけない行為が、実際には目に見えないところで行われているというのが実態だからです。これは、痴漢行為や婦女暴行のような性的犯罪の発生と似ています。これら明白なセクハラ行為ばかりではなく、その発生の周辺にある行為、いわゆるグレーゾーン対策です。

7 セクハラを取り巻くグレーゾーン対策                                                         (1) グレ-ゾーン行為とは                                                                 ◉ セクハラであるか、判断が微妙である事例                                                     ◉ 即座にセクハラとは判断されなくとも、放置しておくとセクハラになりかねない事例                                  ◉ セクハラを発生させる風土的温床となりうる事例                                                    と考えられ、このような行為に対しても、職場で起こさないようにすることが必要です。また、性に関する言動の受け止め方は、女性と男性とは違います。男性が「性的ジョーク」あるいは「親しみの現れ」と思っているのに対し、女性は「性的な脅威」や「地位を利用した脅かし」と捉えているケースが多いようです。                                             男女の受け止め方の違いに対しては十分な理解が必要です。                                          

(2) 性的発言・行為としての具体的事例                                                      ◉ 職場で顔を合わせるたびに「子供はまだか」、「まだ結婚しないのか」と繰り返し尋ねる。                                  ◉ 「太ったんじゃない」、「その髪型よくないよ」等、容姿、身体等女性の仕事と直接関係のない不快な発言をする。                                              ◉ 勤務時間終了後に、部下の女性を飲食に誘い、性的な誘惑をする。                                           ◉ 職場の宴席において,デュエットやダンスの相手をしつこく要求する。                                     ◉ 通りがかりに時々女性の肩に触る。                                                        ◉ 男性が集まって、女子が中に含まれているのに、性的な会話で盛り上がる。                                      ◉ 休憩時間にヌード雑誌をこれ見よがしに読む。                                                ◉ 仕事と関係のない女性の水着のポスターを掲示する。                                                      これらに代表される行為は、似たような事例も含め思い当たる点があると思います。こうしたグレーゾーン行為に対するチェックを職場全体で行うことにより、明らかにセクハラの発生を防ぐことができると思われます。また、このような行為は今後のセクハラの解釈、受け取る側の捉え方(Unwelcomeの程度)、繰り返される頻度等によっては、セクハラと判断されることもあり得る "注意すべき行為" であることは認識しておく必要があります。                                              これに加えて、性的発言ではありませんが、「女性に対して特別な役割意識を持つ」、「女性を職場の対等のパートナーとして見ない」ことから発生する行為も様々あります。このような行為もグレーゾーンに属します。これは、特に、「ジェンダーハラスメント」とも呼ばれています。                                                          

(3) ジェンダー(社会的性)とは                                                            「男らしさ」、「女らしさ」といった社会的側面から見た性別役割のことです。生物学的な性別(男、女)とは本来別であるが、現実は生物学的な性別にジェンダーを社会が押し付けていると考えられている。                                    

(4) ジェンダーハラスメントの具体的事例                                                    ◉  私的な買い物、雑用などをわざわざ女性を探して頼む                                                   ◉ 女性は会議・打合せ等には参加させず、いつも電話当番だけをさせる。                                       ◉ 女性には業務上の意見を求めない                                                             ◉ 「女、子どもは・・・・・」、「女のくせに・・・・」といった女性を蔑視するような発言をする                                 ◉ 「女性は家庭に入って子育てに専念することが幸福の第一歩なのだ。そうした方があなたの為だよ。」と妊娠した女性に退職を進める。                                                                          これらのジェンダーハラスメントはセクハラの風土的温床となるばかりでなく、仕事の与え方や人員配置の点で男女を不当に差別する可能性があります。これは、「男女雇用機会均等法」違反として別の問題となります。                                                      このように、男女の雇用機会の均等を図り、女性の活用と女性が働きやすい職場づくりを推進していくことと、セクハラを起こさない風土を作り上げていくこととは表裏一体の関係にあります。                                                                                                                                                                                                                            

おわりに                                                                          政府は平成11年(1999年)4月1日、男女雇用機会均等法を改正しました。これは、政府がセクハラを防止し、真の女性の活用と女性が働きやすい環境づくりを進めて行こうとする取り組みの一環であります。                    私は、セクハラはもちろん、セクハラにつながるような意識、風土も含め皆で議論し、意思疎通を図りながらより良い日本の職場環境づくりに役立ちたいと思っています。                                        また、ここでは、男性から女性に対するセクハラ問題に絞り取り上げましたが、近い将来、同性同士あるいは女性から男性に対するセクハラも発生することが予想されますので、この点につても加害者にも被害者にもなることがないよう、一人一人が充分注意して頂きたいと思います。                                                                      セクハラの定義は、米国等の女性問題の先進国と比べて、日本はまだまだ狭い範囲でしか捉えていませんが、今後解釈の幅が広がっていくことも考えられますので、さらに一段高いレベルでセクハラのない真に働きやすい職場環境創りに貢献できればと思っています。(終)

グローバルスポーツ医学研究所.jpg

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