防衛大学校関連

國分学校長に聞く

2017.03.17

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防衛大学校長 國 分 良 成

 防衛大学校長に着任してからこの3月末で5年目を終え、4月からは6年目に入ることになる。この5年、実にいろいろなことがあった。最初の2年は、学校の輪郭を知ることだけで手一杯であった。ところが2年目の途中から、保険金事案といじめ事案を中心に、学生関連の様々な案件が生起した。これらの問題に真剣に向き合うと同時に、このピンチをいかにチャンスに変えるかに腐心した。そうした中から生まれたのが「新たな高みプロジェクト」であり、昨年の『小原台だより』では、その一環であった「新学生間指導」について紹介させていただいた。
 一昨年、教養教育センターを設立した。その目的は、知的で文化的な契機を学生に与え、かつ英語能力を向上させることであった。センターの主催で、文化人、経済人、宇宙飛行士など異業種で活躍する著名人の講演会を企画し、同時に英語能力向上のための諸施策を展開してきた。英語に関しては、この数年でTOEICの平均点を100点以上上げることができ、一定の成果が出ている。
また、国際交流センターを設置し、増大する留学生の受け入れと防大生の海外派遣、拡大する学生主体の国際士官候補生会議、増え続ける海外からのお客様の受け入れ等々、こうした急速な国際化の動きに対応できる体制を整備した。ただ、今では仕事量が増えすぎ、センター職員の増員が急務となっている。
 そして昨年、念願のグローバルセキュリティセンターを設置し、開所記念式典を兼ねた国際シンポジウムを開催した。このシンポでは、コロンビア大学名誉教授のジェラルド・カーティス氏を基調講演にお招きし、その問題提起をもとにパネルディスカッションを行った。防大は教育中心の機関ではあるが、同時に300人を超える各分野の優秀な研究者を教官として有しており、こうした先生たちの学科を超えた共同研究が必要だとの観点から研究センターを設置した。防大側の熱い要請に防衛省も財務省も応えてくれ、平成29年度には約1.5億円という予算が真水で付くことになった。この研究センターが将来、防大の研究面における顔として存立していればと思っている。
 遠泳、カッター、棒倒し、断郊、持続走などと言えば、防大の卒業生であれば今でも血が騒ぐはずである。昨年度から防大では、11種競技を設定し、年度最優秀大隊を決定することにした。11種とは、パレード、体力測定、カッター、水泳競技会、英語能力(TOEIC)、演劇祭、棒倒し、ビブリオ(書評)バトル、隊歌コンクール、断郊、持続走がそれである。ちなみに、第1回の昨年度は3大隊が年度最優秀大隊を勝ち取った。このような様々な競技会で活躍した学生たちにもメダル等が授与されるが、それらの賞品に関しては防大同窓会から多大なるご支援をいただいており、心からお礼を申し上げたい。
 この5年、全国各地の自衛隊の基地や部隊を訪れ、防大卒業生たちの活躍の現場に触れるとともに、自衛隊の具体的な任務について実地研修を行ってきた。それこそ、北は知床から南は硫黄島・沖ノ鳥島、東は南鳥島から西は与那国島まで、陸・海・空の主要な基地や部隊はいうまでもなく、地方の比較的小さな自衛隊関連施設にいたるまで、かなりの数を訪問させていただいた。各地で出会った防大卒業生との会話は、学校の方向性を決めるのに大いに参考になっている。
 海外の士官学校との交流拡大のため、諸外国も公式訪問させていただいた。スウェーデン、フランス、アメリカ(2回)、タイ、ベトナム、マレーシア、ポーランド、イギリス、フィリピン、東ティモールなどがこれまでの公式訪問国である。各国で防大卒業生に会うのは実に楽しいひとときであり、また防大卒業の防衛駐在官に出会うのも嬉しいひとときであった。
 ここまでやや5年間の自慢話に傾いてしまったので、以下においては、防大が今後とも取り組まなければならないいくつかの重要かつ主要な課題を取り上げてみたい。
 そのひとつは、少子化の中で、防大にいかに優秀な学生を迎え続けるかという点である。急激な少子化が始まるいわゆる2018年問題があり、一般大学においては学生の獲得競争が始まっている。自衛隊の任務は質量ともに拡大傾向にあるが、同時に危険な部分も拡大していく可能性がある。現段階において防大は十分な数の受験生を確保している。しかしそれが今後とも保証されるわけではない。必要なことは、絶えず入試改革を行い、また全国の高校生に広く防大の魅力を発信することである。
 もうひとつの課題は女性の増員である。現在、防大の定員は480名、このうち女性は従来40人だが、まもなく60人になる。防大が女性の卒業生を輩出してから20年が経過した。もちろん一線で活躍している女性も多いが、自衛隊を退かれた方もいる。防大生には優秀な女性が多い。彼らが卒業後も自衛隊で活躍できることを祈るばかりだが、防大の学生生活においても、現状の男性中心の運営スタイルからいかに女性も躍動できる空間を作りだすか、これは大きな課題であり挑戦である。
 またもうひとつの課題は、高等教育機関としての防衛大学校をいかにして普通の大学並みの地位に引き上げるかという問題である。学生時代も含めて一般大学に40年在籍した経験から言えば、防大は一般大学の数倍もすべての中身が充実している。日本一の大学だと豪語する自信もある。しかし現状では、「大学」でなければ学位を与える資格がなく、「大学校」は学位授与機構という文科省の下部機関を通じて学位が授与されるシステムである。防大は一流の教官を多く擁しているにもかかわらず、学士・修士・博士の学位を審査する権利を持っていない。「大学」にしか「大学院」は設置できず、「大学校」では「研究科」という名称が認められるだけである。日本全国、いかなるレベルの「大学院」でも修士・博士の学位を審査して授与することができるが、防大の教官たちはそれができない。このような、世界にも稀な現状をいかに改善するか、これは防大教官たちの学者としてのプライドにも関係する重要な課題である。
 以上のような課題以外にも、学生の自由と規律のバランスをいかに図るか、教官・事務官・自衛官(陸・海・空)の間の調和をいかに作り出すか等々、様々なテーマが考えられる。加えて、さらなる防大の発展のために、今後ともいかに防大同窓会との連携強化をはかるか、これも重要なテーマである。

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